世間師ー粕谷隆夫 - 天道公平
2020/11/22 (Sun) 14:15:30
粕谷大人には世間師の面影があると思っていました。ドストエフスキーに打ちのめされた高校生が、後年、物流の世界に飛び込んで全国を巡るうちに自ずから身に付いた職業知であろうと考えていましたが、宮本常一の影響もあったのですね。
ちなみに、『忘れられた日本人』(岩波文庫)では世間師に〈せけんし〉とルビがふってありますが、私は、佐野眞一(「旅する巨人 宮本常一と澁澤敬三』、『宮本常一が見た日本』)に従い〈しょけんし〉という読みを採用したいと思います。岩波が勝手に付けたルビよりも、佐野眞一さんのフィールド・ワーク(彼の取材はこう呼ぶ方がふさわしい)の結果である〈しょけんし〉の方が信頼性があります。岩波や柳田國男や網野善彦は〈せけんし〉の読みを採っていますが、そんな権威に従う必要はありません。宮本常一の言葉として使う場合には、世間師はあくまでも〈しょけんし〉です。
何よりも出会い(人でも、書物でも、酒でも)を大切にする世間師(しょけんし)・粕谷隆夫の言動で私が心惹かれるのは、『貧しき人びと』や『虐げられた人びと』に注がれる視線の暖かさです。
それは、ドヤ街近くの縄のれんにたむろする労務者やドライブ・インで食事する自衛隊上がりのトラック野郎や〈神谷バー〉の喫煙エリアに巣食うけったいな人びとの描写からも窺い知ることができます。
同じ視線を持って眺めれば、農林水産業に従事する人々の顔が気持ち良いと感じるのは理の必然である、と私は思います。
佐野眞一 - 粕谷隆夫
2020/11/23 (Mon) 10:43:16
いや~買い被りも度が過ぎています。世間師(しょけんし)の深い味合いをもつ人間ではありません。苦労が足りません。だから出会いを勝手に歓迎しますが、帰宅して独酌すると『あれ、誤解もはなはだしい。おれは間違っていた』と感じる日々ばかりでした。
自分をこの世界に導いた1冊とその理由に関して、佐野眞一は『忘れられた日本人』をあげ、『名もなき人々の人生を高所から説くのではなく、すべて〝小文字"で語りつくしている。文章から取材方法まで私が常に学ばせてもらった本』と言っています。【文筆生活の現場】(中公新書ラクレ)
かれの奥さんは面白い方で、アメリカ大リーグのテレビを見ていると消してしまう。『彼らはカネをもらってやっているだけだもんね』『カネをもらわないでやっている奴なんているのか』と問いただすと、『美空ひばりかな。歌わないと死んじゃうんですよ、あの人は』と答えるそうです。眞一さんも書かなければ死んじゃう気持ちになるらしい。天道さんの天女も有智高才を発揮していらっしゃるのでは・・・。
佐野眞一の著書【だから、僕は、書く。】【だから、君に、贈る。】(共に平凡社) これを読んで小学生の活き活き躍動する心を終生失わないようにしなくてはと自戒しました。
Re: 世間師ー粕谷隆夫 - 天道公平
2020/11/24 (Tue) 17:46:01
いやいや粕谷大人、「おれは間違っていた」と感じる日々の積み重ねが世間師を育むものなのです。凡人は間違っていることにさえ気付かないのです。
苦労が足りない?いやいや、苦労が足りないのではなく、苦労しなくて済むように周りの人間が動いてくれるような環境を作り出す器量がある、ということです。