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「銀の時代」→「血さわぎ心躍る」 - K.Murano

2024/04/19 (Fri) 00:34:50

 粕谷発行人が昨日(4/18)下記「方言と翻訳」で高柳聡子氏の新著を紹介していますが、その初出に当たるWeb上の同氏による翻訳詩の連載については、すでに昨年3月、天道公平氏が言及しています。上記ワード検索で「埃だらけのすもも」とキイワードを入れれば閲読可能だと思います。

 「1890年~1920年代は、ロシア文学において「銀の時代」と呼ばれているのですか。知らなんだ。」

 とのことですが、これはロシア文学の中でも詩人たちが活躍した「この時期」を指す言い方です。ブローク、エセーニン、パステルナーク、マヤコフスキーと挙げれば十分でしょう。
 もちろん、高柳氏は同じ時期の有名・「無名」の女性詩人たちにとくに着目しているわけですが。

 19世紀前半のプーシキン、レールモントフらの詩人の「時代」が「金の時代」Золотой векとロシア文学史では称されています。
 それに続くのがトルストイ、ドストエフスキーなどの偉大な小説の時代。
 そしてこの大波のあとに、今度は天才的な詩人らの「銀の時代」Серебряный векの幕が開いた、というわけです。(「金の時代」が二つあるわけにいきませんから、こちらは「銀の時代」。)

 「時代」と訳されていますが、上記のように векという語を用います。これは、20-й век(20世紀)というように century(世紀、100年)として使われることが多いのですが、「銀の時代」という場合は、19世紀90年代から1920年代のブロークやエセーニンの死あたりまでのせいぜい30年、40年くらいの時期を指します。1930年のマヤコフスキーの自死まで、という説もあるとか。

 「水源地」6号所収の白玄丹波氏の文章の冒頭に、今春、札大教授の山田隆氏が学生へのお別れの辞として、Век живи, век учисьと述べられたことを紹介しています。

 この場合の векを「世紀」「100年」としたら(ですが)、意味が「100年生きよ、そして100年学べ」(直訳)となります。
 Викисловарь(ヴィキ・スロヴァーリ)というネット上の辞典を見たら、この決ま文句について、こういうことが書いてありました。

 「いつも何か学んでいなさい、自分がごく経験ゆたかであっても(あるいは自身をそうみなしていても)、常に、新しい知識には開かれていなさい」

 日本の辞典ではスペースの関係で「生きている限り学べ」と、ずいぶんと短縮された翻訳表現になってしまうのですが、ロシアのほうは土地が広いせいでしょうか、さすが「ゆうゆう」と説明しています。

 いつも何か学ぶ、いつも「血さわぎ心躍る」、とは、まさに、「水源地」6号で荒井寿恵氏が紹介されたところの、鎌田とし子先生の世界ではないでしょうか。

 (注:「血さわぎ心躍る」とは鎌田とし子先生の今回の新刊の副題)

Re: 補足(脱線) - K.Murano

2024/04/19 (Fri) 21:53:29

 山田隆先生が大学を去る際に教え子たちに告げた言葉、その言葉を引用した白玄丹波氏。

 実はここがロシア人の面白い處なのですが、山田先生や丹波氏推奨の「生きている限り学び続けよ」という決まり文句<Век живи, век учись>は、或るロシア人に言わせると「学校ではここまでは教えるというその範囲内」だそうです。

 実際には、さらに、<а дураком помрёшь>と続くことがある、とか。すなわち、「直訳」すれば、「馬鹿として死すだろう」。


 多くの日本人はたぶん「私は馬鹿としては死にたくない」でしょうが、ロシア人はかなり、達観しているわけです。あの連中は相変わらずアル中が多くて駄目だとか、プーチンのいいなりになっていて馬鹿みたいだ、とか今の私は言いたくはありません。しかし、ロシア人自身は、このように、自分を冷静に見ているわけです。

 もちろん、この「馬鹿」を「学者馬鹿」と捉えて、人生は短いから、一芸に秀でる者も二芸、三芸、四芸と秀でることはできない、と、解釈することは可能です。

 巨大な宇宙、この大きな世界からみれば、ちっぽけな、短い人生の間で、いったい、何ができるのか。 パスカルは「考える葦」と言ったが、これはわれら人間への励ましの言葉だったのでしょうか。

 ■資料紹介:

 『注解 露語熟語辞典』(井田孝平校閲、哈爾浜学院教授水谷健行著、東京「橘書店」版、昭和10(1935)年11月発行)から――
 век живи, век учись. 百年生きれば百年学べ(諺)即ち人間は生涯学んで止めるなの意。

 『プログレッシブロシア語辞典』(編集主幹・中澤英彦、小学館、2015年3月発行)から――
 век живи, век учись(, дураком умрёшь)
生きていれば学ぶこともいろいろあるものだ;
 長生きはするもんだ。

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