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京都の喫茶店から「都はるみ」へ

1:K.Murano :

2024/05/02 (Thu) 22:42:25

 住んでいる所から歩いて相当に遠い(新刊)書店で以下の文庫を購入した。二か月ほど以前のことだ。

――『喫茶店文学傑作選集』(林哲夫編、中公文庫、2023.9.25初版発行)。

 裏面のカバーに、「28篇の選び抜かれた短編小説・エッセイなどから、明治以来の喫茶店文化の神髄に触れる。」と刷り込まれていた。

 28篇の著者は以下(★印は女性)。

―― 夏目漱石、森茉莉(★)、水野仙子(★)、谷崎精二、村山槐多、中戸川吉二、浅見淵、北園克衛、植草甚一、戸川秋骨、田村泰次郎、中原中也、小山清、安田武、澁澤龍彦、埴谷雄高、戸川エマ(★)、伊達得夫、山崎朋子(★)、野呂邦暢、洲之内徹、高平哲郎、平岡正明、小野十三郎、常盤新平、吉村昭、鷹野隆大、山田稔。

 ご覧の通り、★は4つしかない。これが第一の不満。第二の不満は、喫茶店で働く人自身による文章がなかったことだ。経営者が書いたものも、ない(こちらの記憶違いはありうるけれど)。

 それら28篇で(私にとって)一番けったいだった文章は「都はるみが露出してきた」(平岡正明)である。たしかに京都の喫茶店に言及してはいる。だが、相当な迫力で、都はるみ(京都の西陣の出身、父はコーリアン)を登場させているのだ。頁の中ではるみの歌声ががんがんと流れている印象を抱いた。
 こんな描写がある。

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 彼女〔都はるみ〕の舞台はすごいものだ。絶叫するまでに彼女が声をはりあげる時には、のけぞらず、逆に、前傾姿勢をとり、燃える杭木がかしいで倒れていくように歌う。すると小柄な身体が、ワンワンというほど唸りをあげる。

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 この叙述に(TV見ただけの私であっても)異論はないが、実際にその舞台を見たわが母いわく、舞台の右から左へ、左から右へと、あの振袖のキモノ姿で、あの足の運び・あの裾さばきを駆使しながら、軽快に飛ぶ動いていく、その姿にこそ驚かされたし魅了された、という。歌よりも足元に「目」を奪われた、ということだ。圧倒的多数の他の演歌歌手には真似できないパフォーマンス、と言えるのではないか。

 都はるみ、といえば、『渇水』の著者:河林満(1950-2008)の「師匠」中上健次(1946-1992)に『天の歌 小説 都はるみ』(毎日新聞社、1987.11.30発行)という作品がある。

 そこに、こんな描写がある。

 (中上健次は、「最後の」ワンマンショーでこの「小説」を締めくくったが、現実には、都はるみは復活し、21世紀になってから「退場」した。去り行くっ前に、青森の野外舞台では、ロックバンドの演奏でキモノ姿で激しいロックンロール調にアレンジした持ち歌と「足技」の動きとを披露した。私はそれをネットで見て、「真っ赤な太陽」を唄ったミニスカート姿の美空ひばりをなぜか思い出した。

 〔以下の引用、適当に行間あける〕。

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 〔上略〕額にか、胸にか〔、〕ついた転生の大歌手の徴〔しるし〕を甘受して生き直せ。
 月並みな歌手の青春を羨やむのはよいが、月並みをなぞって何が面白かろう。普通の女の一生を羨やむのは当然だが、蓮の花がくちなしの花になろう、朝顔になろうとしてみてどうなろう。ファンは叫んでいた。

 ファンは叫んでいた。普通の女、普通の男であるファンの一人一人は、自分が自分の一生をしか送りようがなく、十把ひとからげに普通と呼ばれる人生なぞ生きてはいないのを知っている。

 ファンの一人一人は、春美が徴つきの歌手だから一層、徴に苦しみ、徴に泣くのを知っていた。徴こそ春美の歌が万人の心を揺さぶり、打ち、どんな固い心の扉でも開けてしまう力だった。春美にすれば何でもない歌だが、聴く者は涙滂沱(ぼうだ)となる。

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 今年になって、(ネットで見たが)名だたる演歌歌手が多く集まり、<都はるみ特集>をやっていた(TV番組でか)。その中で、或る女性歌手が「はるみちゃあん、かえってきてえ」とラブコールを送った。
 
 私はその声音に違和感を覚えた。ひっそりと暮らしている(暮らしたい)「ふつうのおばさん」に対して、そうした誘いの言葉はどうなのか、と思ったのである。

 あの足の運び、あの裾さばきは、いまの「ふつうのおばさん」には、無理、というものだ。「都はるみ」が再々登場したら、上記の平岡正明のいう「前傾姿勢」は可能だろうが、もはや、彼女に「足技」(あしわざ)を要求するのは、酷(こく)というものだ、ラブコールは不要だろう。

 
2:K.Murano :

2024/05/02 (Thu) 22:52:21

うまい女性演歌歌手はたくさん現れた。

しかし、都はるみのように、振袖すがたで舞台の上を素早く縦横に動いた歌手はいないのではないか。右腕を斜め上に突き上げてその右腕を露わにしてみせる、そのポーズ。体全体を震わせる、そのパフォーマンス。

都はるみの歌は、歌だけを聞いていては、面白さが半減してしまうのではないか。あの舞台の上のすべての動きを見ながら聞くに限る、という歌(歌手)なのではないか。

●好きになった人
https://www.youtube.com/watch?v=JC7V8JHxJiY

●「王将一代 小春しぐれ」(歌謡浪曲)
https://www.youtube.com/watch?v=L6K6gVjLoUA

●「夜来香 オリエンタルムードを唄う」
https://paraisorecords.com/?pid=115924309

●夜来香/1972年
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=o3ONBlZ13vQ

●ふるさとよ
https://www.youtube.com/watch?v=JmvglVH6dyU

●愛は花、君はその種子(ジブリ映画「おもひでぽろぽろ」主題歌)
https://www.uta-net.com/movie/75055/-fWlUFay50s/

●人生、歌がある2024年2月3日放送国民的演歌歌手 都はるみ特集
https://www.youtube.com/watch?v=N_rWbqXQlbU

3:K.Murano :

2024/05/02 (Thu) 23:24:58

 上記:平岡正明氏の文章の中で、都はるみの「アリラン」は素晴らしい、とあるが、まったく賛成です(上記のサイト「夜来香 オリエンタルムード」参照)。

 都はるみの父はコーリアンだった。コーリアン・ランゲージの歌を、春美は父親か親戚から直接、聞いたことがあったのではないか。

 はるみが中国や朝鮮の歌を唄うとき、あの「こぶし」歌唱法は引っ込めて、澄んだ声が響き渡るのだ。
 
 もしかしたら、小さい頃、地元の西陣の音楽教室に通っていた時の歌唱法に戻って、大人の「都はるみ」は、父親につながる歌を唄ったのではないか(と私は思った)。
4:K.Murano :

2024/05/02 (Thu) 23:58:17

 上記の中上健次の小説によれば、春美は小さい頃から、西陣の機織り女の母親(日本人)から歌を教わっていた。母は屋内で仕事をしながら歌を唄っていた。浪曲が好きだったという。

 歌謡浪曲と銘打った「王将一代 小春しぐれ」は、都はるみの歌人生の最高峰ではないか、と思った(上記のサイト参照)。

 村田英雄、三波春夫みたいに、浪曲を生かした歌を彼女はもっと歌ってもよかったのではないか。

 「王将一代 小春しぐれ」を唄っているとき、はるみは、もしかしたら、働きながら歌っていた母親の姿を思い浮かべていたのかもしれない。
5:K.Murano :

2024/05/03 (Fri) 00:11:02

 上記「京都の喫茶店から「都はるみ」へ」で引用した中上健次の小説からの引用の第一行目:

 (誤) 転生の大歌手

 (正) 天成の大歌手
 
6:K.Murano :

2024/05/03 (Fri) 00:16:19

 (誤) 上記「京都の喫茶店から「都はるみ」へ」で引用した中上健次の小説からの引用の第一行目

 (正) 上記「京都の喫茶店から「都はるみ」へ」で引用した中上健次の小説の一節の第一行目
7:粕谷隆夫 :

2024/05/03 (Fri) 07:07:20

https://bbs2.fc2.com//bbs/img/_881100/881043/full/881043_1714687641.jpg  「さようなら」は、いらない。「元気でいてね」。

 村野さんのご母堂。

8:K.Murano :

2024/05/03 (Fri) 11:54:45

 ありがとうございます。

 母は先月、満98歳を迎えて元気です。さすがにちょっと、ぼけてはいますが。

 施設の方針か、塗り絵に励んでいます。同じ所の入居人たちが「おとなしすぎる」と不満を洩らしています。一人で大声で歌を唄っています(戦後ではなく、愛染かつらなど、戦前・戦中の歌が多いようですが)。

 『生きる 廉子・広子文集 増補改訂第2版』(私家版、2021年9月発行)所収の「飽きたからやめんべえや」という聞き書きの一文は、福島みゆき氏主宰の「せせらぎ」誌に載せることができなかったものす。これは、次回の「水源地」7号に載せていただこうかな、と希望します。その内容は、壷井栄の小品「餓鬼の飯」と共通するもので、農村の女の子たちのその行事については、母の文章のほうが詳しいくらいです。

 なお、上記の中上健次の『天の歌 小説 都はるみ』ですが、春美の父母の経歴については触れていません。「実録・都はるみ」だったら触れたかもしれませんが、「小説」ということで、当時、中上は、はるみのプライバシーを守ったわけです。

 私の母は、都はるみがいつまでたっても(若い女の子みたいに)長振袖のキモノを愛用していること、その柄(がら)が綺麗なことを指摘していました。

 引退したとはいえ、今ではネットでかなり、彼女の歌と姿を視聴できます。便利な世の中になったものです。
9:K.Murano :

2024/05/03 (Fri) 11:58:50

 上記:

 (誤)『生きる 廉子・広子文集 増補改訂第2版』

 (正)『生きる 廉子・宏子文集 増補改訂第2版』

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