『はじめてのおつかい』続き - 美水正一
2025/04/29 (Tue) 08:15:21
② 渋谷駅の変貌
実は、渋谷にはちょくちょく出向いているのです。しかし僕にとっての渋谷は小田急線で下北沢から井の頭線に乗り換え、道玄坂を上って、二人連れの男女が伏し目がちに行き交うラブホが林立する円山町にある映画館(渋谷ヴェーラやユーロスペース)に行くルートだけで、その他の渋谷は知らないのです。駅直結の複合施設ビル「渋谷スクランブルスクエア」東棟がオープンし、駅周辺の再開発に伴い、東急東横線、東急百貨店東横店東館の跡地に建設されたビルは地上47階・地下7階のスクランブルエリアに変貌し、渋谷スカイなる展望施設が誕生しているのです。地上230mの屋上展望空間からは富士山や東京スカイツリーなどを360度パノラマビューで楽しめ、今やインバウンド客の聖地と化しているのです。もともと複雑に入り組んだ渋谷駅ですが、どの出口のどの階から向かうとスカイに行けるのか、はたまた銀座線への乗り口はどの階のどの出口が便利なのか、勝手がわからず客をアテンドをする身にとっては大いなる試練なのです!
③ 方向音痴
安くて旨い焼き鳥屋を探す嗅覚には自信があります。しかし、僕は無類の方向音痴なのです。今回の一行の宿泊ホテルはりんかい線品川シーサイド至近なのですが、出口Aからすぐに在る筈のホテルがなかなか見つけられないのです。結果的にはあちこち遠回りをした挙句、道路を挟んだ向かい側にそのホテルはありました。勿論、客を連れて迷うわけにいきません。また時間通りにホテルに行き着くにもルート把握は必要です。これには事前予習が欠かせません。品川駅ホームでの出迎えも事前のシミュレーションが必要でした。一行はグリーン車(10号車)で帰京したわけですが、この号車に最も近いエレベーターは品川駅北口にしか通じていないのです。予定では一行を南口に誘導しタクシー待機場から乗車させる手筈です。事前チェックで3-4号車が停車する付近のエレベーターを使うとスムーズに南口に出ることがわかりました。僕のような方向音痴は前もってのルート確認が欠かせないのです。
今回の僕の『はじめてのおつかい』で僕は品川駅でお客さんを出迎える前に強めの缶酎ハイを3杯飲んでしまいました。『はじめてのおつかい』でやってはいけない行為と、反省です。品川駅南口の一角は狭いエリアですが路地に居酒屋や小料理屋が入り組んでどの店も赤ちょうちんを掲げ競い合っています。こうした地帯を寄り道せずに通過するのは酷過ぎる試練です。子供をわざわざおもちゃ売り場に連れて行って、関心を示してならぬと諭すようなものです。3杯目の酎ハイの後、時間が迫って来たので急ぎ立ち喰いそば屋で夕食を済ませたわけですが、ここのそば屋の自販機は現金が使えないのです。僕よりも一回りほど年上の老夫婦が自販機の前で財布を片手にあれこれ言い合っていたものの、その後悄然と姿を消しました。僕は交通系のICカードを持っていましたのでこれが使えましたが彼らには現金の持ち合わせしか無かったようです。最近は飲食店の注文もタブレットによるセルフオーダー方式を採用する店が多くなっています。この間入った店は係が僕をテーブルに案内するや、卓に置かれたQRコードを示し注文はこれで行え、と言うのです。僕はスマホのアイコニット(iconit)でそのQRコードを読み取り何とか鶏の唐揚げと豚の生姜焼きの合い盛りセットを注文出来ました。無人店舗ならいざ知らず係員が居るのに注文は客先側で自己完結せよ、というわけです。あの老夫婦であれば、この店でも食べたいものを注文するのにさぞや戸惑うことでしょう。
こうして僕の『はじめてのおつかい』は終了しました。まさに時代はさまざまなデジタルデヴァイスによる障害物競走と化しています。果たして僕は今後無事ゴールに行きつけるでしょうか!
追記:
今回のお客様はカザフスタンのアルマトイに本社を構える有限責任事業組合「Bapy Mining」の社長(65歳)とその奥様(63歳)、ドイツのバーデンバーデンに住むその甥っ子2名の計4名でした。社長ご夫妻には2人の娘さんがいるそうですが今回日本に連れて来たのは社長のお姉さんの子供二人でした。彼らはドイツの寄宿舎で生活していますが学校の休みを利用しておじいちゃんとおばあちゃんとの日本旅行に参加したようです。有限責任事業組合「Bapy Mining」は2008年設立のカザフスタンの会社で、鉱床の探査、採掘を行い、鉄鉱石を生産する会社のようです。社長ご自身は小柄で温和な風貌でまるで日本人と見分けがつかぬ方でした。お話を伺うと、お祖父さんが、スターリンによる強制移住政策によりカザフスタンへ送られた朝鮮人の末裔でご本人はその3世、ということです。1937年、スターリンは朝鮮人を根こそぎ強制移住させる命令を下し、同年末までに、ウズベク共和国へ7万5000人、カザフ共和国に9万5000人を送り込んだようです。カザフ共和国行きの列車に詰め込まれた朝鮮人たちは、着の身着のまま、冬の迫る荒野に放り出されたとのことです。全くひどいことをするものです。
一方、奥さまは純粋なロシア系です。気さくでおしゃべり好きで、帰りの成田行きのジャンボタクシーの中では「私がロシアの指導者なら、北方4島は即座に日本へ返還するわ!小さな島の領有にこだわるより日本人に喜んでもらい、より良き隣人関係を結んだ方が余程いいことじゃない!!」とおっしゃってくれました。カザフ国籍のおばさまのご意見がクレムリンに届くとは思えませんが、僕としては、ありがたく拝聴させていただきました。今回は、箱根、奈良、京都、大阪、東京延べ10日間の旅程だったようです。あいにく天気には恵まれませんでしたがご一行はとても満足して帰国しました。(2025年4月29日)